AI エージェントを作る前に考えること
最近、多くの企業で「AI エージェントを作ろう」「AI エージェントを活用しよう」という言葉を聞くようになりました。AI を業務へ取り入れること自体は、とても良い流れだと思います。
ただし、その前に考えるべきことがあります。
AI エージェントとは何か。
この問いに、組織として答えられるでしょうか。ここが曖昧なまま進めると、ツール選定も、設計も、評価も、すべてが人によって違うものになります。
定義できないものは設計できない
システム設計では、最初に対象を定義します。
例えば「ファイアウォールを構築してください」と言われても、それがパケットフィルタなのか、WAF なのか、リバースプロキシなのか、L4 なのか、L7 なのかが決まっていなければ設計は始まりません。
Kubernetes でも同じです。「ロードバランサを構築してください」と言われても、Service を指すのか、MetalLB を指すのか、クラウドのマネージドロードバランサを指すのか、BGP なのか L2 なのかで、設計は大きく変わります。
AI エージェントも例外ではありません。言葉の輪郭が決まっていなければ、何を作るのかを決めることはできません。
人によってイメージが違う
「AI エージェント」という言葉から思い浮かべるものは、人によってかなり違います。
ある人は ChatGPT のようなチャット UI を思い浮かべるかもしれません。ある人は Copilot Studio のようなローコードツールを思い浮かべるかもしれません。また別の人は、複数のツールを自律的に呼び出し、状態を持ちながらタスクを進める仕組みを想像するでしょう。
同じ言葉を使っていても、見ているものが違う。この状態で「AI エージェントを作る」と言っても、議論は安定しません。
AI エージェントを作ろう、は仕様ではない
「AI エージェントを作ろう」という言葉だけでは、何を作ればよいのか分かりません。
チャットボットなのか。ワークフローなのか。API を利用した業務システムなのか。外部ツールとの連携が必要なのか。状態を保持する必要があるのか。人間の承認をどこに挟むのか。失敗時に誰が責任を持つのか。
これらが決まっていなければ、それは仕様ではありません。方向性を示すスローガンです。
スローガンだけでは設計はできません。
難しいかどうかではない
ここで重要なのは、「AI エージェントは難しい」という話ではありません。
問題は、定義されていないものを設計しようとしていることです。
設計とは、言葉を定義し、境界を決め、責務を分離し、評価基準を決めることです。AI だけが特別なわけではありません。
むしろ AI のように解釈の幅が広い技術ほど、先に言葉の輪郭を作らなければなりません。
最初に作るべきもの
AI エージェントを作る前に、組織として整理すべきものがあります。
- 当社でいう AI エージェントとは何か
- AI チャットとの違い
- ワークフローとの違い
- RPA との違い
- 利用するプラットフォーム
- 外部ツール連携の範囲
- 人間の承認が必要な境界
- 開発・運用方針
- 評価基準
- サンプルアーキテクチャ
これらを定義して初めて、全員が同じ言葉で議論できるようになります。
特に重要なのは、AI に何を判断させ、何を処理させ、どこから先を人間が決めるのかを分けることです。責務分離が曖昧な AI エージェントは、便利そうに見えても運用で崩れやすくなります。
AI に限った話ではない
これは AI に限った話ではありません。ファイアウォール、Kubernetes、DNS、シャドー IT、ゼロトラスト、クラウド。どの技術でも、最初に必要なのは概念の定義です。
曖昧な言葉のまま議論を始めれば、人によって解釈が変わります。解釈が変われば、設計も成果物もばらばらになります。
技術の導入で失敗する原因は、技術そのものの難しさだけではありません。言葉の定義、責務の境界、評価基準が曖昧なまま進むことも、大きな失敗要因になります。
参考書籍
書籍
AI エージェント開発/運用入門 生成 AI 深掘りガイド
AI エージェントの開発や運用を、概念だけでなく実装・運用の観点から確認したい場合の参考書籍です。
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AI エージェントは言葉の設計から始まる
AI エージェントは、これから間違いなく普及していくと思います。だからこそ、流行語として使うのではなく、一度立ち止まって問い直す必要があります。
私たちは、AI エージェントという言葉を、きちんと定義できているのか。
この問いに答えられないのであれば、今本当に必要なのは新しいツールではありません。
組織全体で共有できる「言葉の設計図」を作ること。私は、それこそが AI 活用の第一歩だと考えています。



