2012 年頃、5 弦で 24 フレットのベースを探していたとき、Spector EURO 5 LX が気になりました。低 B 弦と高音域を持つだけでなく、立体的な NS ボディ、35 インチスケール、ネックスルー、EMG、TonePump が一つの方向を向いた楽器に見えたからです。
ただし、私はこの個体を購入していません。この記事は実機レビューではなく、当時の購入候補を現在の資料から見直すものです。2012 年当時に見ていた販売情報、近い時期の国内カタログ、現在の公式情報を分け、世代をまたいで同一仕様だとは扱いません。
Spector EURO 5 LX はチェコ製 Euro Series の 5 弦
Spector の Euro Series は、1993 年からチェコで製作されてきた NS ボディ系のシリーズです。現行 EURO 5 LX の公式ページでも、チェコ製、曲面ボディ、ネックスルー、24 フレット、アクティブ EMG、TonePump という系譜が確認できます。
一方、木材、指板、ピックアップの型番、ハードウェアは製造時期や仕様によって変わります。現在の製品ページを、そのまま 2012 年当時に見ていた個体へ当てはめることはできません。
2013 年国内カタログで確認できる仕様
2013 年国内カタログでは、EURO5LX の仕様は次のように記載されています。現在は元の PDF が公開 URL で開けないため、2012 年当時に見ていた個体と完全に同一とは断定せず、同時期の国内流通仕様を知る記録として扱います。
| 項目 | 2013 年国内カタログ | 設計上の意味 |
|---|---|---|
| 弦数 | 5 弦 | 低 B 弦を追加する |
| スケール | 35 インチ | 低 B 弦を含む張力と音程感を狙う |
| 構造 | Neck-Thru | ネックがボディ中央を貫く |
| ボディ | USA Figured Maple Top/Alder Back | トップの外観とアルダーバックを組み合わせる |
| フレット | 24 フレット | G 弦で 2 オクターブまで扱える |
| ピックアップ | EMG 40CS-TW × 2 | フロントとリアにアクティブピックアップを置く |
| プリアンプ | Spector 9 V TonePump | 楽器内で低域と高域を調整する |
当時の定価は税込 357,000 円と記載されています。実売価格や中古価格は別ですが、20 万円前後で探していた私にとって、値引きや中古個体を含めて気になる位置にあったのだと思います。
NS ボディは外観ではなく身体との接点を作る
Spector の丸みを持つ NS ボディは、ブランドを識別する外観であると同時に、身体へ沿わせるための形状です。Spector 公式の沿革によると、Ned Steinberger が「form follows function」という考えから曲面ボディを設計し、最初の NS-1 は 1977 年に製作されました。
平らなボディへコンターを加えただけではなく、ボディ全体が立体的に湾曲しています。座奏と立奏で身体への当たり方が変わるため、見た目から快適さを断定せず、自分の姿勢で確認する必要があります。
35 インチは低 B 弦と左手の両方へ影響する
EURO 5 LX の 35 インチスケールは、一般的な 34 インチより 1 インチ長くなります。低 B 弦の張り、音程感、アタックを得やすくなる可能性がある一方、フレット間隔と左手の移動距離も広がります。
| 35 インチで期待すること | 同時に確認すること |
|---|---|
| 低 B 弦の輪郭と張り | 弦ゲージ、弦高、ピックアップとの組み合わせ |
| 低音の音程感 | 低いポジションでの左手の開き |
| 長い弦長による余韻 | ベンド、ビブラート、タッピングの感触 |
| 5 弦間の統一感 | 高い弦まで硬く感じないか |
スケールだけで低 B 弦の良し悪しは決まりません。ネック剛性、ブリッジ、ナット、弦、セットアップ、ピックアップまで含めて判断します。
ネックスルーと 24 フレットの組み合わせ
ネックスルーでは、ネック材がボディ中央を通り、左右にボディウイングを取り付けます。EURO 5 LX の外観では、ネックとボディの接合部を滑らかに作りやすく、24 フレット付近へ左手を入れる構造と結びついています。
ただし、ネックスルーなら必ずサステインが長く、音が良いと単純化はできません。構造から確実に言えるのは、ボルトオンとは異なる部品境界を持つことです。実際の音の立ち上がり、余韻、修理性は個体と設計全体で確認します。
- 20~24 フレットへ親指を無理なく移動できるか
- 高音域へ移ったとき、ボディが右手を妨げないか
- 低 B 弦から G 弦まで、同じ強さで発音できるか
- 高音域の音量が低音域に対して急に細くならないか
EMG への抵抗感を分解する
当時の私は EMG に対して、「人工的」「硬い」という曖昧な印象を持っていました。しかし、EMG というブランド名だけで音を決めつけると、ピックアップとプリアンプ、取り付け位置、楽器本体の違いを混同します。
| 構成要素 | 主な役割 | 試奏で分けて聞くこと |
|---|---|---|
| EMG ピックアップ | 弦振動を電気信号へ変える | 各弦の出力、アタック、ノイズ |
| ピックアップ位置 | 拾う倍音と低域の割合を変える | フロント/リアの性格と混ぜ方 |
| TonePump | 楽器内で低域・高域を調整する | 基準位置、効き幅、出力レベル |
| 35 インチとネックスルー | 弦振動を支える物理構造 | 低 B 弦の立ち上がりと余韻 |
明瞭な出力は、演奏の粗さもはっきり出します。それを人工的と感じるか、低 B 弦を含めて扱いやすいと感じるかは、アンプ、弾き方、アンサンブルで変わります。当時より EMG を受け入れられそうだと感じたのは、音の好みが変わっただけでなく、明瞭さを機能として見るようになったからだと思います。
TonePump はピックアップとは別に確認する
TonePump は、ベースとトレブルを調整するアクティブ回路です。ピックアップから来た信号を楽器内で増幅・補正するため、ノブ位置によって出力と周波数バランスが変わります。
中古個体では TonePump が別のプリアンプへ交換されていることもあります。EMG が同じでも、プリアンプが変われば操作と出力は変わります。試奏では、EQ を大きく上げた派手な音だけでなく、低域・高域を控えた基準音と、アンプ入力が過大にならない出力を確認します。
演奏動画で見るポイント
当時は、Adam Nitti が EURO 5 LX を弾く動画を参考にしていました。ただし、現在確認できる資料としては、検索リンクではなく OfficialSpector が公開している Spector Euro5LX: Sound Demo を直接参照します。
- 低 B 弦だけ音量や余韻が不自然に変わらないか
- フロントとリアの混ぜ方で中域がどう変わるか
- 指弾き、スラップ、ピックでアタックがどう変わるか
- 高音域へ移ったときも低音楽器としての重心が残るか
- EQ の変化と演奏者のタッチを混同していないか
動画は相対的な変化を見る資料です。重量、曲面ボディの当たり方、ネックの厚さ、35 インチの左手負担は、実際に構えなければ判断できません。
参考資料
- Spector EURO 5 LX 公式ページ / Spector
- Spector 公式沿革 / Spector
- Spector Euro5LX: Sound Demo / OfficialSpector
- Spector: Euro LX and Euro LX Bolt-On Series with Ian Allison / OfficialSpector
- Euro 5 LX LTD – Fingers Demo / OfficialSpector
- Amazon で Spector EURO 5 LX と 5 弦モデルを探す
中古の EURO 5 LX で確認したい点
- シリアル番号から製造年とチェコ製 Euro Series であることを確認する
- 世代ごとの木材、指板、EMG 型番、プリアンプを確認する
- 35 インチの低 B 弦で音程、ビビり、音量差を確認する
- ネックスルー部とボディウイングに割れや修理跡がないか確認する
- 24 フレットまでの摩耗、音詰まり、弦高を確認する
- 両ピックアップと TonePump の全ノブを動かし、ガリと出力を確認する
- バッテリー室に液漏れや配線改造がないか確認する
- 立奏と座奏で重量、ボディの曲面、ストラップ位置を確認する
EURO 5 LX は長く続くモデル名なので、名前が同じでも仕様は一定ではありません。「EMG と TonePump の Spector」という大枠だけで買わず、その個体の年代と構成を確認します。
当時の理想に近かった理由
当時の私が求めていたのは、低 B 弦と 24 フレットを持ち、外観にも明確な個性があるベースでした。EURO 5 LX は、35 インチ、ネックスルー、NS ボディ、EMG、TonePump によって、その条件を単に並べるのではなく、一つの楽器として成立させているように見えました。
Warwick Corvette $$ がピックアップの接続を切り替えて幅を作る楽器だとすれば、Spector EURO 5 LX は、曲面ボディ、長いスケール、ネックスルー、アクティブ電装を固定した強い基準音から作る楽器に見えます。どちらも 5 弦 24 フレットですが、設計の中心は異なります。
まとめ
Spector EURO 5 LX は、NS 曲面ボディ、35 インチ、24 フレット、ネックスルー、EMG、TonePump を組み合わせた 5 弦ベースです。2012 年当時の私にとって、低音域、高音域、外観、明瞭な電装を一つにまとめた、理想に近い購入候補でした。
ただし、EMG だから硬い、ネックスルーだから余韻が長い、35 インチだから低 B 弦が良い、と部品名だけで決めることはできません。ピックアップ、プリアンプ、構造、セットアップ、身体との相性を分けて確認することが、このモデルを正しく見る方法だと思います。
機材
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