ベースのスラップには、親指を弦へ当てた後、そのまま次の弦側へ通過させる振り抜きと、弦へ当てた反動で親指を戻す弾き方があります。2013 年に見た比較動画で、後者は「フリースタイル」と呼ばれていました。
違いは親指の見た目だけではありません。サムの音、打弦後の親指の位置、プルへ入る人差し指の角度、ダブルサムへの接続、不要弦のミュートが変わります。どちらが正しいかではなく、出したい音と次の動作から選ぶ必要があります。
参考にした比較動画
元記事で参照していたのは、淳ちゃんねる@ベース講座ドヤ顔ハッタリ技の「スラップ 振り抜き/フリースタイルどっちから始めたらいい?」です。現在も公開されており、親指の軌道とプルの入り方を実演で比較できます。
ここで使う「フリースタイル」は、この動画の表現に合わせた呼び方です。スラップ奏法の用語は教則や奏者によって異なるため、この記事では動作が分かるように、振り抜きと跳ね返しという言葉も併記します。
振り抜きと跳ね返しの違い
| 観点 | 振り抜き | 跳ね返し/フリースタイル |
|---|---|---|
| 親指の軌道 | 弦を通過し、次の弦側へ抜ける | 弦へ当てた後、元の方向へ戻る |
| 打弦後の位置 | 対象弦より内側または隣の弦付近 | 対象弦の外側へ戻る |
| 次の動作 | アップストロークへ接続しやすい | 次のダウンストロークを作りやすい |
| プルの角度 | 手が内側へ入り、角度が変わりやすい | 手が外側へ戻り、通常の位置を保ちやすい |
| ミュート | 親指が内側へ移るため再配置が必要 | 親指の戻りを低音弦のミュートへ使える |
この表は典型的な傾向です。親指を伸ばすか曲げるか、手首を回すか前腕を動かすか、ベースを構える高さによって軌道は変わります。同じ「振り抜き」でも全員が同じフォームになるわけではありません。
振り抜きは弦を押し込むことではない
振り抜きでは、親指が弦を通過します。しかし、弦を指板方向へ強く押し込むことが目的ではありません。必要なのは、フレットへ当たるだけの速度を与え、その後の親指が弦の振動を妨げない軌道へ抜けることです。
親指を深く入れすぎると、隣の弦へぶつかり、腕の動きも大きくなります。抜ける位置が毎回変わると、次のサムやプルの距離も変わります。大きな動きで勢いを作るより、弦を越える最小限の深さを探します。
振り抜いた親指を隣の弦へ軽く預ける方法もあります。これは動きを止める基準になりますが、預けた弦を鳴らしてしまう場合は、接触の強さとタイミングを調整します。
跳ね返しは反発だけに任せない
跳ね返す弾き方では、親指が弦へ当たり、外側へ戻ります。動きが分かりやすく、単発のサムを強く鳴らしやすい一方、親指を弦へ叩きつけて反発だけで戻そうとすると、音量と戻り幅が安定しません。
実際には、手首または前腕の回転で打弦し、同じ軌道を逆向きに戻します。弦の反発は補助であり、戻る位置は右手側で制御します。親指を高く跳ね上げるほど大きな音になるわけではありません。
親指が外側へ戻るため、次のダウンストロークを同じ位置から始めやすくなります。8 分音符や 16 分音符の単発サムを揃える練習では、この再現性が扱いやすく感じられます。
サムの音は軌道だけで決まらない
元記事では、跳ね返すフリースタイルの方が「一般的なサムの音」に聞こえると感じていました。ただし、音の違いを軌道だけへ帰属させることはできません。
- 親指の関節付近と側面のどこを当てるか
- 最終フレットからどの位置で弾くか
- 弦へ入る速度と角度
- フレットへ当たる強さ
- 打弦直後に親指が弦へ触れ続けるか
- 弦高、弦、フレット、ピックアップの設定
同じ振り抜きでも、弾く位置と親指の当て方を変えれば音は変わります。スタイル名だけで音色を決めず、同じ音量で録音して比較する方が確実です。
プルの角度が変わる理由
私が振り抜きで最も難しく感じたのは、プル時の人差し指の角度でした。親指が弦の内側へ抜けると、手のひら全体の位置も内側へ移ります。そのまま人差し指を使うと、弦へ入る深さと引き上げる方向が変わります。
プルは、弦を指板から遠くへ大きく引っ張る必要はありません。指先を弦の下へ深く入れるほど音量は上がりますが、戻る距離も増え、タイミングが遅れます。弦を横切るように指を抜き、必要なアタックだけを作ります。
| 問題 | 確認すること |
|---|---|
| プルだけ大きい | 指を弦へ入れすぎていないか |
| プルが遅れる | サム後に手全体を構え直していないか |
| 隣の弦も鳴る | 人差し指の抜ける方向と左手ミュート |
| 振り抜き後に届かない | 親指を深く入れすぎていないか |
ダブルサムへの接続
ダブルサムでは、親指のダウンストロークとアップストロークの両方で発音します。典型的には、ダウンで弦を通過し、内側へ入った親指を戻すアップで弦へ再び当てます。そのため、振り抜きはダブルサムへ接続しやすい動作です。
ただし、単発のスラップをすべて振り抜きへ統一する必要はありません。曲の中でダブルサムへ移る部分だけ軌道を変えることもできます。跳ね返すフォームからダブルサムへ接続する方法を持つ奏者もいるため、「振り抜き以外では絶対にできない」と断定しない方が正確です。
重要なのは、アップストロークの前に親指が弦の内側へあり、戻る軌道で弦を捉えられることです。名称より、ダウン後の親指の位置を確認します。
ミュートは両方のスタイルに必要
スラップではアタックが強いため、弾いていない弦も共振しやすくなります。親指の軌道を練習するときは、音が出たかだけでなく、不要弦を止められたかを確認します。
- 左手の余った指で高音弦へ触れる
- 押弦を緩めて実音の長さを切る
- 右手親指の付け根や手のひらで低音弦へ触れる
- 振り抜いた親指を隣の低音弦へ預ける
- プル後の指で不要弦へ触れ続けない
振り抜きでは親指が内側へ移動し、跳ね返しでは外側へ戻ります。そのため、同じミュート配置をそのまま使えるとは限りません。スタイルを変えたときにノイズが増えるなら、親指以外の役割も再配置します。
右手の角度は楽器の構え方でも変わる
動画と同じ手首の角度を再現しても、自分のベースで同じ動きになるとは限りません。ストラップの長さ、座奏と立奏、ボディ形状、弦間、最終フレットの位置によって、弦へ入る角度は変わります。
先に親指の形を固定するのではなく、肩と手首に無理がなく、同じ打点へ戻れる楽器位置を決めます。手首を強く曲げ、前腕へ力を入れなければ音が出ない場合は、ストラップや右腕の置き方から見直します。
振り抜きとプルを分けて練習する
- 開放弦を左手でミュートし、振り抜きだけで 8 分音符を弾きます。
- 親指が毎回どこへ止まるかを確認します。
- 跳ね返しへ切り替え、同じ音量とテンポで録音します。
- プルだけを行い、弦へ入る深さと音量を揃えます。
- サム 1 音とプル 1 音を交互に接続します。
- 振り抜きのダウンとアップを分け、ダブルサムへ進みます。
- 最後に実際のベースラインへ 1 小節だけ組み込みます。
速さを上げる基準は、親指が動いたことではありません。サムとプルの音量、拍の位置、実音の長さ、不要弦のノイズが揃っていることです。録音して崩れていなければ、少しずつテンポを上げます。
場面で使い分ける
| 場面 | 選びやすい動作 | 理由 |
|---|---|---|
| 単発の強いサム | 跳ね返し | 外側の同じ位置へ戻りやすい |
| 連続ダウンストローク | 跳ね返し | 次のダウンを同じ軌道から始める |
| ダブルサム | 振り抜き | 内側からアップへ戻しやすい |
| サムからプル | どちらも可能 | プルの角度と音量で選ぶ |
| 複数弦を移動するフレーズ | 振り抜き | 隣の弦へ親指を預けやすい |
これは固定ルールではありません。自分のフォームで同じ音とリズムを再現できるなら、別の軌道でも成立します。目的はスタイル名を守ることではなく、必要な音を無理なく繰り返せることです。
まとめ
スラップの振り抜きと、跳ね返すフリースタイルでは、親指の軌道だけでなく、打弦後の位置、プルの角度、ダブルサムへの接続、ミュートの配置が変わります。
振り抜きはダウンからアップへつなぎやすく、跳ね返しは単発のサムと連続ダウンを同じ位置から繰り返しやすい傾向があります。ただし、音色は軌道だけでは決まりません。弾く位置、当て方、弦高、プル、ミュートを含めて比較する必要があります。
どちらか一方へ統一するより、まず両方をゆっくり試し、出したい音と次の動作に合う方を選ぶ。その使い分けが、スラップを単なる派手な打音ではなく、曲の中で制御できる奏法にします。
練習
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