AI 活用という言葉が、かなり雑に使われるようになりました。文章の整理、コードの読解、設計の壁打ち、調査、要約、実装補助。AI は、人間の思考や作業を大きく拡張できます。
ただし、最近よく見かける「AI 活用」には違和感があります。人間が自分たちの仕事の形を変えないまま、面倒な作業をそのまま AI に押し付けようとしているだけではないか、と思うことがあるからです。
AI を使うなら、人間側も AI が読める形に歩み寄る必要があります。AI に何を命令するかより前に、AI に渡す仕事の形がまともかどうかを見た方がよいです。
AI は人間の悪習を継承するためのものではない
たとえば、Word で作られた曖昧な文章があります。見出しの構造が曖昧で、どこが結論で、どこが前提で、どこが補足なのかもはっきりしない。人間が目で読めば何となく分かるかもしれませんが、機械にとっては構造が弱い入力です。
一方で、Markdown で書かれていれば、見出し、箇条書き、コードブロック、表といった構造が明確になります。AI にとっても、文章の論理構造を追いやすくなります。
コードについても同じです。何かを実行してほしいのであれば、自然言語の手順書をだらだら読ませるより、既に存在するコードやスクリプトを読ませた方が扱いやすいことが多いです。必要な変数を足し、既存の処理の流れに沿って変更する方が、AI にとっても人間にとっても安全です。
Excel 方眼紙を AI に見せるな
日本企業の仕事を象徴するものの一つに、Excel 方眼紙があります。人間にとってもつらいですが、AI から見てもかなり厳しい入力です。
それは表なのか。文書なのか。帳票なのか。レイアウトなのか。データなのか。なぜセルが結合されているのか。なぜ 1 文字ずつ別セルに入っているのか。なぜ罫線で業務要件を表現しているのか。
AI の気持ちになってみれば、「そんなものを読ませるな」と言いたくなるはずです。もちろん、AI に気持ちはありません。ただ、処理系として見れば、Excel 方眼紙のようなものは最悪に近い入力です。見た目のために構造を壊し、人間の都合で意味を曖昧にし、データとしても文書としても扱いにくくしています。
それを AI に読ませて「いい感じにして」と言うのは、AI 活用というより、人間の悪習を AI に押し付けているだけです。
AI 活用の前に、仕事の形を直す
AI が得意なのは、構造化された情報を読み取り、関係性を見つけ、矛盾を検出し、次の行動を提案することです。
| AI が扱いやすいもの | 理由 |
|---|---|
| Markdown | 見出し、箇条書き、表、コードブロックの構造が明確になる |
| JSON / YAML | データ構造とキーの意味を追いやすい |
| コード / スクリプト | 実際の処理、変数、依存関係を読める |
| Git の履歴 | 変更の流れや意図を推測しやすい |
| README / ADR | 前提、判断、運用意図を参照しやすい |
逆に、人間が作った曖昧な文書、謎の承認フロー、転記作業、Excel 方眼紙、口頭でしか伝わらない前提は、AI にとって扱いにくい入力です。
AI が使えないのではありません。人間の仕事が、AI に読ませる価値のある形になっていないことがあります。
AI に渡す前に消すべき仕事がある
AI を使う前に考えるべきことがあります。その作業は、本当に AI に処理させるべきものなのか。それとも、先に消すべきものなのか、ということです。
転記作業を AI に手伝わせる前に、そもそも転記が発生しないデータ連携にできないのか。会議メモを AI に整えさせる前に、会議の目的や決定事項を最初から構造化できないのか。承認資料を AI に作らせる前に、その承認プロセス自体が必要なのか。
ここを飛ばすと、AI は仕事を良くする道具ではなく、悪い仕事を延命する道具になります。人間が作った曖昧な作業を、AI がそれらしく処理してしまうことで、問題の構造が見えにくくなるからです。
AI 活用で最初に見るべきなのは、AI の性能ではありません。人間側の業務が、構造化された入力、明確な責務、機械が扱えるデータ、再現可能な手順になっているかどうかです。
AI に歩み寄るという発想
これから重要になるのは、AI に何を命令するかだけではありません。人間側の仕事を、AI が理解しやすい形に変えていくことです。
- Word の見た目に閉じず、Markdown で構造を残す
- 曖昧な手順を、コードやスクリプトに落とす
- 転記ではなく、データ連携にする
- 口頭説明ではなく、README や ADR に残す
- GUI 操作だけに閉じず、CLI や API で扱えるようにする
- 承認資料ではなく、判断と根拠を残す
これは単なる効率化ではありません。AI と協働するために、人間側の仕事の構造を変えるということです。
AI 活用とは、既存の無駄な仕事を AI に肩代わりさせることではありません。人間の仕事を、AI が処理できる構造へ作り替えることです。
まとめ
AI が人間に合わせてくれると思っているだけでは、本当の意味で AI は使えません。人間も AI に歩み寄る必要があります。
その文書は、AI が読める形をしているか。その作業は、AI にやらせる価値があるのか。その業務は、AI によって効率化すべきものなのか、それとも先に消すべきものなのか。
AI の気持ちになってみる。そう考えるだけで、人間の仕事の雑さや無駄はかなり見えてきます。AI 活用の入口は、AI への命令文ではなく、人間側の仕事の構造を直すことにあります。
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