エンジニアとして業務の中で退屈に感じやすい作業の一つに、製品やシステムのパラメータシートを Excel で作る作業があります。設定項目を洗い出し、デフォルト値を書き、設計値を書き、備考欄に注意点を残す。業務として必要なのは分かりますが、これを延々と Excel で管理することにはかなり限界があります。
ただし、Excel を全面的に否定したいわけではありません。表形式で情報を整理する道具として、Excel は非常に強力です。パラメータ一覧を人間が読む、レビューする、顧客に説明するという場面では、今でも便利な道具です。
問題は、Excel のパラメータシートを設定管理の正本にしてしまうことです。設計値、実装値、履歴、差分、レビュー、反映状態まで Excel に閉じ込めると、運用の再現性がかなり弱くなります。
書籍
構造化思考のレッスン
Excel の表を否定するのではなく、設定、責務、正本、レビュー単位を分けて考えるための参考書籍です。価格や在庫はリンク先で確認してください。
Amazon で見るこのリンクは Amazon アソシエイトリンクです。
Excel パラメータシートが使われる理由
パラメータシートが Excel で作られやすい理由は分かります。設定管理は、見た目としては表にしやすいからです。
- 設定項目の名前
- 設定項目の説明
- デフォルト値
- 設計値または設定値
- 値を変更する理由
- 備考や注意点
このような項目は表形式と相性が良いです。だから Excel で作ること自体は自然です。特に、非エンジニアを含めたレビューや説明では、Excel の方が伝わりやすい場面もあります。
しかし、表として見やすいことと、設定管理の正本として適切であることは別です。
Excel を正本にすると何がつらいのか
Excel パラメータシートを正本にすると、設定がどのように変わったのかを追いにくくなります。セルの変更は Git の差分として扱いにくく、レビューもしづらく、なぜその値になったのかを後から追うのが難しくなります。
さらに、Excel に書かれた値が実際のシステムへ反映されているとは限りません。Excel 上の設計値、構築時に投入した値、現在稼働している値がずれていても、気づきにくい構造になります。
- 差分がレビューしにくい
- 変更理由が履歴として残りにくい
- 実機との差分を検出しにくい
- 自動テストや構文チェックに乗せにくい
- 再構築時に同じ状態を再現しにくい
この状態では、Excel は設計書でありながら、実際には運用の負債にもなります。
設定管理はコードに寄せた方がよい
結論として、設定管理はできるだけコードに寄せた方がよいと思います。Linux サーバーであれば Ansible、Kubernetes であれば YAML や Helm、ネットワーク機器であれば設定テンプレートや自動化ツールなど、環境に合わせた形で正本を持つ方が自然です。
たとえば、設定値を次のような構造化されたデータとして管理できれば、差分、レビュー、再利用、自動反映がしやすくなります。
ntp_servers:
- 10.1.0.10
- 10.1.0.11
dns_servers:
- 10.1.0.53
- 10.1.0.54
timezone: Asia/Tokyoこのような形式であれば、設定値がどこにあるのか、いつ変更されたのか、どの環境に適用されるのかを追いやすくなります。Excel のセルに値を埋め込むより、構成管理の文脈に乗せやすいです。
Excel は補助資料に戻す
Excel を完全になくす必要はありません。むしろ、説明資料やレビュー用の一覧として使うなら十分に価値があります。
ただし、正本は Excel ではなく、構成管理側に置くべきです。Excel はそこから生成される資料、または人間向けのビューとして扱う方が健全です。
- 正本は Git 管理された構成ファイルに置く
- Excel はレビュー用、説明用、提出用のビューにする
- 実機との差分確認を自動化する
- 変更理由はコミットやレビュー履歴に残す
- 再構築できることを前提に設計する
この形にすると、Excel は便利な表現手段に戻ります。Excel が悪いのではなく、Excel に正本、履歴、反映、証跡のすべてを背負わせることが問題なのです。
GUI でしか操作できないものがつらい理由
個人的には、GUI でしか操作できない製品や設定がかなり苦手です。理由は単純で、構成管理に乗せにくいからです。
GUI 操作は、人間がその場で何をクリックしたかに依存します。手順書を書けば再現できるように見えますが、実際には画面のバージョン、権限、操作順、入力ミス、確認漏れに左右されます。
一方で、設定をコードとして扱えれば、少なくとも変更内容をレビューできます。再実行できます。差分を確認できます。失敗した時に戻しやすくなります。運用の安定性という意味では、この違いはかなり大きいです。
業務設計としての脱 Excel
脱 Excel とは、Excel を使わないことではありません。Excel に向いている役割と、向いていない役割を分けることです。
パラメータシートを Excel で作る文化は、レビューや提出の形式としては理解できます。しかし、設定管理そのものを Excel に閉じ込めると、エンジニアリングとしての再現性が落ちます。
設定値は、できるだけ機械が読める形で管理する。人間向けの一覧は、その正本から生成する。この順序に変えるだけで、運用の質はかなり変わると思います。
関連記事
- VBA を扱う人をエンジニアだと思う企業は非 IT 企業 – 技術職の理解不足を見抜く
- エンジニアと情シスの役割構造の違い – 技術設計と社内運用を混同しない
- AI を中途半端にしか使えない理由 – プロンプト術より構造化が重要
- エンジニアのキャリアは良い経験を積めるかで決まる – 技術責任を持てる環境を選ぶ
まとめ
Excel パラメータシートは、情報を一覧化する道具としては便利です。しかし、設定管理の正本として使うには限界があります。差分、履歴、レビュー、再現性、実機との差分確認に弱いからです。
これからの設定管理は、できるだけ IaC や構成管理に寄せた方がよいと思います。Excel は正本ではなく、人間向けのビューや補助資料に戻す。その方が、設計も運用もずっと健全になります。
私は、IaC にできないもの、GUI でしか操作できないものがかなり苦手です。なぜなら、それは運用を人間の記憶と手作業に戻してしまうからです。設定は、できる限り再現可能で、レビュー可能で、機械的に扱える形にしておきたいと思います。


