2024 年 4 月 26 日、ドル円相場は 1 ドル 158 円台に到達しました。円安そのものは為替市場の出来事ですが、ここで考えたいのは「円安が良いか悪いか」ではありません。円安によって、日本の産業構造の弱さがかなり見えやすくなっている、という点です。
円安には輸出企業の円建て収益を押し上げる面があります。一方で、エネルギー、食料、クラウドサービス、ソフトウェア、海外 SaaS などを輸入・利用する側にとっては、コスト上昇として効いてきます。現代の日本では、この後者の影響がかなり大きくなっています。
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円安を単純に良いものとは言えない
高度経済成長期や輸出製造業が強かった時代であれば、円安は輸出競争力を高める要素として語りやすかったと思います。国内で作り、海外に売り、外貨を稼ぐ構造が強ければ、円安は企業収益を押し上げる方向に働きやすいからです。
しかし、現在の日本経済は当時とは違います。製造業の競争力は分野によって差があり、同じような製品を他国でも作れるようになりました。さらに、国内企業や個人の生活は、海外の資源、食品、デジタルサービスに強く依存しています。
そのため、円安は一部企業には追い風でも、国民生活や中小企業、輸入依存の高い業種にはコスト増として効きます。円安を一枚岩で評価すること自体が、かなり雑になっています。
輸出企業を守るだけでは構造は強くならない
問題は、円安によって一部の輸出企業の収益が改善しても、それが日本経済全体の構造改善を意味するわけではないことです。為替で価格競争力を補う構造は、裏返せば、製品やサービスそのものの付加価値で勝ち切れていない状態でもあります。
本来であれば、日本は製造業だけに依存せず、IT、ソフトウェア、クラウド、デジタルサービス、知的財産、金融、研究開発など、外貨を稼げる領域をもっと育てる必要がありました。ところが、その転換は十分だったとは言いにくいです。
結果として、日本は米国を中心とした海外 IT サービスに強く依存し、経済活動をすればするほど、海外サービスへの支払いも増える構造になっています。これは単なる為替の問題ではなく、産業構造の問題です。
低コスト体質が競争力を弱くした
バブル崩壊後の日本では、長くコスト削減が重視されました。人件費を抑え、非正規雇用を増やし、国内投資を絞り、短期的な利益を守る。これは企業にとって一時的には合理的だったかもしれません。
しかし、低コスト体質は、長期的には新しい産業を育てる力を弱めます。人材に投資せず、技術に投資せず、新しい市場に挑戦しなければ、最終的には価格でしか戦えなくなります。
円安でしか競争力を維持できない状態は、企業努力の成果というより、産業転換を先送りしてきた結果でもあります。安い通貨と安い労働力に依存する経済は、豊かさを作るというより、じわじわと購買力を削っていきます。
デジタル赤字という見えにくい流出
現代の円安を考える上で重要なのは、モノの輸入だけではありません。クラウド、広告、ソフトウェア、サブスクリプション、プラットフォーム利用料など、デジタル分野で海外に支払うお金も増えています。
これは、かつてのように石油や食料だけを見ていればよい時代ではない、ということです。企業が DX を進め、クラウドを使い、海外 SaaS を使えば、利便性は上がります。一方で、その基盤を国内で持てていなければ、利用が増えるほど海外への支払いも増えます。
つまり、日本経済がデジタル化しても、その中核を海外サービスに依存している限り、デジタル化は国内の稼ぐ力に直結しにくい。ここに、今の日本の弱さがあります。
円安は結果であり、原因でもある
円安は金融政策や日米金利差だけで説明されがちです。もちろん、それは重要な要素です。しかし、より長い目で見ると、日本が外貨を稼げる産業を十分に作れず、海外サービスへの依存を増やしてきたことも、円の弱さにつながっています。
円安は日本の構造問題の結果です。同時に、円安が輸入コストを上げ、生活コストを押し上げ、国内投資余力を削ることで、さらに構造問題を悪化させる面もあります。
この悪循環を考えずに、円安を単に輸出企業に有利なものとして扱うのは、かなり危うい見方だと思います。
必要なのは為替対策だけではない
為替介入や金利政策だけで、この問題を根本的に解決することは難しいと思います。短期的な為替の安定は必要かもしれませんが、それだけでは産業構造は変わりません。
- 外貨を稼げる高付加価値産業を育てること
- IT、ソフトウェア、クラウド、AI などの国内基盤を強くすること
- 人件費を単なるコストではなく、競争力への投資として扱うこと
- 安売りではなく、価値で売れる製品やサービスを増やすこと
- 製造業だけでなく、サービス・知財・デジタルでも稼ぐ構造を作ること
円安を止めるかどうか以前に、日本が何で稼ぐ国なのかを再定義する必要があります。ここを曖昧にしたままでは、為替水準だけを見ても本質には届きません。
まとめ
ドル円相場が 158 円に到達したことは、単なる為替ニュースではありません。円安によって、日本が長く放置してきた産業構造の問題が見えやすくなった出来事だと思います。
円安で一部の輸出企業が利益を出しても、国全体として外貨を稼ぐ力が弱く、デジタルや資源を海外に依存しているなら、経済活動をすればするほど海外への支払いも増えていきます。
本当に必要なのは、円安を良い悪いで語ることではなく、円安に頼らなくても稼げる産業構造を作ることです。今の円安は、その課題をかなり分かりやすく突きつけているように見えます。

