はじめに
KVM は驚くほど簡単に動きます。
apt install qemu-kvm すれば、仮想マシンはあっさり立ち上がる。
それだけで十分に実用的で、これこそ Linux の懐の深さです。
ただ、何も考えずに動くということは、裏側で起きている膨大な処理を“意識しなくて済む”ということでもあります。それは便利ですが、構造を知らないままでは最適化の余地に気づけません。
その一例が HugePages(ヒュージページ)です。
設定必須ではありませんが、余裕があるならぜひ考慮しておきたい要素です。
メモリアクセスの構造を少しだけ
Linux は通常、メモリを 4KB 単位のページで管理します。
KVM ではホストとゲストの両方にページテーブルが存在し、CPU はメモリアクセスのたびに二重のアドレス変換を行います。
HugePages はページサイズを 2MB や 1GB にまとめることで、変換の手間を減らし、TLB(Translation Lookaside Buffer)の負荷を下げます。
結果として、CPU が「メモリの住所録を引く回数」を減らすことができるのです。
これは単に速くなるだけではなく、“仮想化とは何か”を構造的に理解するための良い入り口でもあります。
CPU ピニングとの対比
同じような仮想化のパフォーマンス系でよくトピックになるのは CPU ピニングです。
CPU ピニング(vCPU を特定の物理コアに固定する)は理論的には美しい最適化ですが、コア数が少ない環境では逆効果になることがあります。
ピン留めした瞬間にスケジューラの柔軟性が失われ、他の仮想マシンが空いているコアを使えなくなるためです。
その点、HugePages はもっと扱いやすい。
メモリは CPU より潤沢に確保しやすく、設定しても副作用がほとんどありません。
CPU ピニングが“理想論”なら、HugePages は“現実論”。自宅や小規模環境では、こちらの方がずっと試しやすい選択肢です。
効果と観測限界
HugePages の効果は、超高負荷環境でこそ明確に現れます。
日常的な用途では体感しづらいかもしれません。ただ、CPU 使用率やキャッシュヒット率といった数字を見ると、確かに効いていることが分かります。
そしてその観察こそが、仮想化の理解を深める第一歩です。
単に「設定すれば速くなる」ではなく、「なぜ速くなるのか」を考える契機になる。
HugePages の考慮は、仮想化を“もう一歩深く見つめる”ための重要な手がかりになると私は思います。
まとめ
KVM は“インストールすれば動く”が、“理解すればもっと動く”。
HugePages はその分かれ目のような存在です。
CPU ピニングのようなハードウェアのハードルが高いチューニングよりも手軽で、
副作用が少なく、それでいて構造を理解する良い材料になる。
体感的な差がなくても、それは無意味ではありません。見えないところで確実に効いています。
余裕があるときに、ぜひ一度 HugePages を意識してみてください。
その一歩が、KVM を単なる仮想化ツールから“理解できるシステム”へと変えてくれるはずです。




