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OSPF の扱いづらさについての考察

なぜ「扱いづらい」と感じるのか

OSPF は「定番ルーティングプロトコル」として長く利用されてきました。

しかし実際の運用では、設定の難しさよりも設計段階での判断の難しさに悩むことが多いのではないでしょうか。

本稿では、OSPF の「理想としての思想」と「実装・運用の現実」の乖離を軸に、その扱いづらさの本質を考察します。


理想主義的すぎる設計思想

OSPF は「正しく設計すれば美しい」プロトコルです。

エリア分割やバックボーン(Area 0)を前提とした階層構造は、当時としては極めて合理的でした。

しかし現代のネットワークでは、機器性能の向上と回線の高速化により、階層化によるスケールメリットが相対的に小さくなっています。そのため、Area 0 だけでも十分に安定運用できる環境が増え、結果として「それ以上の設計を行う必要がない」ケースが多くなりました。

こうして OSPF は、「高度に設計すれば複雑になり、簡略化すれば思想が薄れる」というジレンマを抱えるようになったのです。

それでもなお、OSPF の理想とする構造的設計には、プロトコルを超えた普遍的な美しさがあります。


設計を複雑にする構造

OSPF の難解さを象徴するのが LSA(Link State Advertisement)です。

Type 1 から Type 7 まで存在し、それぞれの伝播範囲と役割が異なります。

特に ABR(Area Border Router)や ASBR(Autonomous System Boundary Router)をまたぐと、
再配送や経路集約のルールが複雑化し、誤った設定は経路欠落や収束不安定を招きます。

実際のトラブル対応では「なぜこの経路が消えるのか」が見えにくく、OSPF の仕組みを理解していないと、ブラックボックスに感じられる場面も少なくありません。


IPv4/IPv6 を分離した設計

OSPF は、IPv4 と IPv6 を別プロセスとして扱います。

IPv4 用の OSPFv2 と IPv6 用の OSPFv3 は独立しており、設定や管理もそれぞれに行う必要があります。

これは、IS-IS のように単一プロトコルで IPv4/IPv6 を統合的に扱える設計と比べると、やや古い構造にも見えます。


拡張性の追求が保守性を損なった

OSPF には Stub、Totally Stub、NSSA といった「部分最適」を狙った仕組みが数多くあります。

しかしこれらは環境に依存した例外設計であり、理解していない運用者にとっては罠になります。

結果、設計者以外が構造を理解できず、引き継ぎ時の事故が頻発します。最終的に「全部 area 0 に戻す」という結末を迎える環境が多いのも、無理からぬことです。

使いこなすほど複雑化していく――それが OSPF の宿命的な側面です。


それでも OSPF が残る理由

それでも OSPF は、ネットワーク世界で最も標準的な選択肢であり続けています。

その理由は明快です。

  • どのベンダーにも実装されており、互換性が高い
  • 実績が豊富で、トラブルシューティングの知見も多い
  • 「とりあえず動かす」のは簡単で、「きれいに設計する」のが難しい

つまり OSPF は、安定した標準として今も現役なのです。


思想を理解して使うしかない

OSPF の本質は「構造を前提にした安定性」です。

その構造を理解せずに導入すれば、BGP よりも扱いにくくなります。

現代では IS-IS や eBGP によるシンプルな設計も有力な選択肢ですし、OSPF と似た領域を扱える EIGRP も視野に入るでしょう。

それでも、OSPF は依然として信頼性が高く、コンバージェンスも高速な優れたプロトコルです。

問題はプロトコルではなく、それをどう設計するかという思想の有無にあります。


推奨

OSPF の思想がハマる環境であれば、ぜひ、エリア分割をしましょう。

わかりやすいのは、よくある企業の WAN です。拠点ごとにエリアを分けると、ルート集約が綺麗にできます。

OSPF の扱いづらさについての考察

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