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スイッチのスタック構成の本質は冗長化ではない

なぜ今スタックを見直すのか

ネットワークスイッチの「スタック構成」は、複数のスイッチを論理的に 1 台にまとめ、設定や管理を一元化できる便利な仕組みです。STP(スパニングツリー)や VRRP などの冗長化プロトコルを使わずにシンプルな構成を実現できる、と説明されることが多いでしょう。

しかし、実際の運用現場でスタックを使うと、「冗長化された構成」のはずが、意外なほど脆いことがあります。特に L3 スイッチやバックボーンなど、停止が許されない領域では、スタックの「便利さ」よりも「一体化によるリスク」が際立ちます。

この記事では、一般的なカタログ的メリットではなく、設計者の視点から見たスタックの構造的課題を整理します。

スタックの構造と本質

スタック構成とは、複数のスイッチを専用ケーブルで接続し、1 台の論理スイッチとして動作させる技術です。構成が 1 つに見えることで、設定も一元化され、運用負荷は大きく減ります。

ただし、ここで注意すべきなのは、スタックは冗長化ではなく、一体化の仕組みだということです。複数台を仮想シャーシのように扱うため、制御プレーン(マスター)は 1 台しか存在しません。

つまり、見た目は多重化されていても、頭脳はひとつです。これが「便利さと引き換えに独立性を失う」構造的特徴です。

管理の簡素化とアクセス層での有効性

スタックの最大の魅力は、構成管理の簡素化にあります。

複数のスイッチをまとめて 1 台として扱えるため、コンフィグ管理が容易になり、STP や VRRP といったプロトコル設計を省けます。また、リンクアグリゲーション(LAG)を筐体を跨いで構成できるため、帯域拡張も柔軟です。

こうした特性は、アクセス層や小規模ネットワークでは非常に有用です。近接したスイッチを統合して扱うことで、運用のシンプルさとコスト効率を両立できます。

可用性の錯覚と構造的リスク

スタックの最大の誤解は、「複数台あるから止まりにくい」という安心感です。実際には、次のような構造的リスクを抱えています。

制御プレーンの集中
マスター機が停止すると再選出が行われ、その間ネットワーク制御は途絶します。複数台で構成されていても、実際には「1 台分の頭脳」しかないのです。

同時障害のリスク
全メンバーでファームウェアを統一する必要があるため、バグを含んだバージョンを適用すると全台が同時停止します。ローリングアップデートも難しく、可用性の面では単一障害点(SPOF)になります。

物理的依存と分断リスク
スタックケーブルの接触不良や断線で、メンバー間の通信が途切れるとスプリットブレインが発生します。双方が自分をマスターと誤認し、ブロードキャストループや MAC 競合を起こす場合があります。

このように、スタックは障害発生率こそ低いものの、一度壊れると全体を巻き込む構造です。

使うべき場所と避けるべき場所

スタックは、どこで使うかを誤らなければ有効です。

アクセス層(有効)
フロア単位・ラック単位でポートを増やす構成に適しています。管理を簡素化したい環境では有力な選択肢です。

ディストリビューション層・コア層(非推奨)
L3 ルーティングや経路制御を担う層では、スタック構成はリスクです。ここでは独立ノードを用い、VRRP、BGP/OSPF、あるいは MC-LAG などの方式で冗長化する方が堅実です。

スタックは「運用を楽にする道具」であって、「可用性を保証する仕組み」ではありません。この線引きを誤ると、障害時にネットワーク全体が止まります。

独立性こそ真の冗長化

高可用性を求めるなら、制御プレーンを分離した構成が望ましいです。

  • MC-LAG / vPC / IRF: 独立した 2 台がリンクレベルで冗長化し、STP を不要化。
  • L3 アクセス + ECMP: 経路をプロトコルに委ね、障害時も自動でトラフィックを分散。
  • EVPN-VXLAN: L2/L3 を仮想的に分離し、BGP で経路を制御する柔軟な構成。

これらはいずれも「独立性を保ちながら協調する」仕組みであり、スタックとは正反対の設計思想です。
冗長化とは分散であり、一体化ではない。

スタックは便利なツールですが、それを冗長化技術と呼ぶのは誤解です。アクセス層での簡易化には適していますが、上位層では「独立性を保つ」構成こそが、真の可用性を生み出します。

まとめ

スタックは「止まりにくい仕組み」ではなく、「止まると全部止まる仕組み」です。その便利さを誤用しないために、どの層で何を守りたいのかを設計時に明確にすること。それこそが、ネットワーク設計者に求められる判断力です。

スイッチのスタック構成の本質は冗長化ではない

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