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単一 VM の vCPU はどこまで割り当てるべきか

1. はじめに

仮想化環境では、CPU オーバーコミットは一般的に用いられている設計手法です。

一方で、単一の仮想マシン(VM)に対する vCPU 割り当てについては、総量管理とは異なる設計上の配慮が必要になります。

本稿で扱うのは、CPU オーバーコミットの可否や許容倍率ではありません。主題は、単一 VM が物理ホストの CPU コア数を超える vCPU を持つべきかどうかという点にあります。

特に、CPU 要件が厳しい仮想マシンや、仮想アプライアンスのように常時高負荷を前提とするシステムにおいて、この問題は性能および安定性に直接影響します。

本稿では、実運用環境を前提とし、単一 VM の vCPU 設計に関する設計原則を整理します。

2. 前提条件とスコープ

本稿は以下の前提条件に基づきます。

  • 検証用途・実験的構成・性能劣化を許容する運用は対象外とする
  • 一般的な仮想化基盤(KVM、VMware、Hyper-V)
  • 物理 CPU のコア数を基準とする
  • ハイパースレッディング(SMT)は考慮しない
  • 実運用環境を対象とする

3. 単一 VM に vCPU を増やすと何が起きるか

単一の仮想マシンに対して vCPU 数を増やすことは、直感的には処理能力を向上させる手段として理解されがちです。実際、アプリケーションが並列処理に対応している場合、一定の範囲までは vCPU の増加に伴って性能が向上することがあります。

しかし、vCPU 数が物理ホストの CPU コア数に近づく、あるいはそれを超えると、期待した性能向上が得られない、もしくは性能が低下する現象が観測されることがあります。

このような状況では、以下のような挙動が見られます。

  • vCPU 数を増やしても処理時間が短縮されない
  • 負荷が高まるにつれて応答遅延が増大する
  • 仮想マシン内部の CPU 使用率と、実際の性能が一致しなくなる

これらの現象は、単一 VM における vCPU 割り当てが、単なるリソース量の問題ではなく、実行タイミングや同時実行性に関わる問題であることを示しています。

本稿では、このような挙動がなぜ発生するのかを整理し、単一 VM の vCPU 設計において注意すべき点を明らかにします。

4. 補足:SMP という前提

仮想マシンに複数の vCPU を割り当てるということは、その仮想マシンを SMP(Symmetric Multi-Processing)構成として動作させることを意味します。すなわち、単一のオペレーティングシステムが、複数の CPU を前提として処理を行う構成です。

SMP 構成では、処理は複数の CPU に分散されますが、すべての処理が完全に独立して実行されるわけではありません。vCPU 数の増加は並列性を高める一方で、処理の同期や実行順序の調整が前提となります。

そのため、SMP 構成においては、vCPU 数を増やせば必ず性能が向上するとは限りません。特に、実行環境の同時実行能力に制約がある場合、その影響は顕著になります。

5. なぜ「物理 CPU コア数超え」が問題になるのか

単一 VM に割り当てられた vCPU は、物理 CPU コア上で実行されます。このとき、同時に実行可能な処理数の上限は物理 CPU のコア数によって制約されます。

vCPU 数が物理コア数を超える場合、すべての vCPU を同時に実行することはできず、ハイパーバイザーによるスケジューリング待ちが発生します。この待ち時間は、仮想マシン内部からは直接把握しにくく、ゲスト OS の CPU 使用率と実際の処理性能との乖離を生じさせます。

その結果、以下のような問題が発生しやすくなります。

  • 負荷上昇時に応答遅延が顕在化する
  • CPU 使用率が低く見えるにもかかわらず性能が出ない
  • 性能劣化の原因切り分けが困難になる

これらは、単一 VM の vCPU 設計において、物理 CPU コア数を超える割り当てが性能の予測可能性および運用上の安定性を低下させることを示しています。

このような理由から、単一 VM における vCPU 割り当ては、物理 CPU の同時実行能力を前提として設計する必要があります。

6. 仮想アプライアンスという前提条件

仮想アプライアンスは、一般に CPU 要件が厳しくなりがちです。その背景には、もともと物理アプライアンスとして設計されていたシステムを、仮想環境向けに提供しているという背景があります。物理環境では暗黙的に確保されていた CPU 資源が、仮想化によって明示的な制約条件として現れるためです。

ただし、CPU 要件が厳しいことは仮想アプライアンスに固有の性質ではありません。通常の仮想マシンであっても、稼働させるサービスの内容によっては、同様に高い CPU 負荷が継続的に発生する場合があります。

一方で、実運用においては、重厚な仮想アプライアンスが高い CPU 要件を持つケースが多いという傾向が見られます。これらは、ファイアウォール、認証基盤、監視・解析系など、常時一定以上の処理負荷を前提とする用途で利用されることが一般的です。

このような仮想アプライアンスには、以下のような特性が見られます。

  • 常時高負荷、または負荷変動が大きい
  • 処理の並列性が vCPU 数に強く依存する
  • 内部実装がブラックボックスであり、挙動の詳細な調整が困難である

これらの特性を持つシステムでは、vCPU 数が性能要件やサポート条件として明示的に定義されている場合も多く、単純なリソース共有の問題として扱うことはできません。

そのため、仮想アプライアンスであるか否かにかかわらず、CPU 要件が厳しい単一 VM を運用する場合には、vCPU 割り当てが物理 CPU の同時実行能力と整合しているかどうかが、性能および安定性に直接影響します。

7. CPU オーバーコミットとの関係整理

仮想化環境において、CPU オーバーコミットは一般的に用いられている設計手法です。複数の仮想マシンを同一ホスト上で稼働させる場合、すべての仮想マシンが常時最大の CPU 資源を消費するとは限らないため、vCPU の総量が物理 CPU コア数を超える構成が採用されることは珍しくありません。

しかし、このような 複数 VM に対する CPU オーバーコミットと、単一 VM に対する vCPU 割り当ては、性質の異なる問題です。両者を同一の設計基準で扱うと、単一 VM の性能や安定性に関する判断を誤る可能性があります。

複数 VM に対する CPU オーバーコミットは、負荷の平準化や統計的多重化を前提とした設計です。一方で、単一 VM に対する vCPU 割り当ては、その仮想マシン自身が前提とする同時実行能力や処理モデルと直接関係します。

特に、CPU 要件が厳しい単一 VM や、常時高負荷を前提とするシステムでは、CPU オーバーコミットによる影響を吸収する余地が小さくなります。このような環境では、CPU オーバーコミットの可否ではなく、単一 VM の vCPU 設計が物理 CPU の実行能力と整合しているかどうかが、性能および予見可能性を左右します。

したがって、CPU オーバーコミットは一般的に許容される設計手法である一方で、それを単一 VM の vCPU 設計にそのまま適用することは適切ではありません。単一 VM の vCPU 設計は、CPU オーバーコミットの議論とは切り離して検討する必要があります。

8. 設計原則としての結論

本稿で整理してきた議論を踏まえると、単一 VM の vCPU 設計に関して、次の設計原則を導くことができます。

単一の仮想マシンに割り当てる vCPU 数は、物理ホストの CPU コア数を超えてはなりません。

この原則は、vCPU の割り当てが技術的に可能かどうかを示すものではありません。実際、主要なハイパーバイザはいずれも、物理 CPU コア数を超える vCPU 割り当てを許容しています。

しかし、単一 VM が前提とする同時実行能力は、最終的には物理 CPU の実行能力によって制約されます。vCPU 数が物理 CPU コア数を超える構成では、スケジューリング遅延や性能のばらつきが発生しやすくなり、性能および挙動の予測が困難になります。

特に、CPU 要件が厳しい単一 VM や、常時高負荷を前提とするシステムでは、この影響を吸収する余地が小さく、安定性や性能に直接的な悪影響を及ぼす可能性があります。

このため、本稿では、上記の条件を推奨事項としてではなく、設計上のガードレールとして位置付けます。すなわち、チューニングや例外的な運用によって超えることを前提とせず、設計段階において明示的に守るべき制約条件として扱います。

9. なぜ例外を扱わないのか

本稿で示した設計原則には、技術的な例外が存在します。特定のワークロードや限定的な環境においては、単一 VM に物理 CPU コア数を超える vCPU を割り当てても、実用上の問題が顕在化しない場合があります。

しかし、そのような例外的な構成は、設計および運用の前提条件が厳しく限定されており、一般化することは困難です。また、例外を許容する設計は、システムの挙動を分かりにくくし、性能や安定性の予測可能性を低下させます。

特に実運用環境においては、以下の点が問題となります。

  • 性能劣化が発生した際の原因切り分けが複雑になる
  • 設計判断の妥当性を第三者に説明しにくくなる
  • 運用担当者や将来の保守担当者に暗黙知を要求する

本稿の目的は、理論的な可能性の探求ではなく、安定した運用と予見可能な性能を得るための設計指針を明確にすることにあります。そのため、例外的な構成を前提とした議論は扱わず、再現性と説明可能性を重視した設計原則に絞って整理しています。

10. おわりに

本稿では、CPU オーバーコミットが一般的に行われている仮想化環境を前提としたうえで、単一 VM の vCPU 設計における設計原則について整理しました。

結論として、単一 VM に割り当てる vCPU 数は、物理ホストの CPU コア数を超えるべきではありません。これは、技術的な制約によるものではなく、性能および挙動の予見可能性を確保し、安定した運用を行うための設計上の判断です。

この原則を明示的なガードレールとして採用することで、以下の点が明確になります。

  • 性能設計の前提条件が単純化される
  • 性能劣化や障害発生時の原因切り分けが容易になる
  • 設計判断の妥当性を第三者に説明しやすくなる

仮想化環境では、多様な構成が技術的には可能であり、例外的な運用も成立し得ます。しかし、実運用において重要なのは、可能性の最大化ではなく、困難な状況を回避し続けられる設計です。

本稿で示した設計原則が、単一 VM の CPU 設計を検討する際の一つの判断基準として、安定した仮想化基盤の構築に寄与することを期待します。

単一 VM の vCPU はどこまで割り当てるべきか

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