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IOWN とは

  • IOWN (Innovative Optical and Wireless Network) 構想は、革新的な光技術を活用して、高速大容量通信や膨大な計算リソースを提供し、個と全体の最適化を図り、多様性を受容できる社会を創ることを目指す。
  • 2024 年に仕様確定し、2030 年に実現を目指す。
  • オールフォトニクス・ネットワーク (APN): 情報処理基盤のポテンシャル向上。
  • デジタルツインコンピューティング (DTC): 新しいサービスやアプリケーションの世界を提供。
  • コグニティブ・ファウンデーション (CF): すべての ICT リソースの最適な調和。
  • 具体的な技術ロードマップを策定し、データセントリックコンピューティング技術やディスアグリゲーテッドコンピューティング技術などを導入し、Smart World 時代のナチュラルなサイバー空間の創造を加速する。
  • NTT、インテル、ソニーなどが参加する IOWN Global Forum, Inc. を設立。
  • 新しいコミュニケーション基盤の実現を促進するため、新規技術やフレームワークの開発を通じて、シリコンフォトニクスを含むオールフォトニクス・ネットワーク、エッジコンピューティング、無線分散コンピューティングを推進する。

IOWN構想とは?
IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想とは、あらゆる情報を基に個と全体との最適化を図り、多様性を受容できる豊かな社会を創るため、光を中心とした革新的技術を活用し、これまでのインフラの限界を超えた高速大容量通信ならびに膨大な計算リソース等を提供可能な、端末を含むネットワーク・情報処理基盤の構想です。2024年の仕様確定、2030年の実現をめざして、研究開発を始めています。
IOWNは次の3つの主要技術分野から構成されています。
オールフォトニクス・ネットワーク(APN: All-Photonics Network)
<情報処理基盤のポテンシャルの大幅な向上>
デジタルツインコンピューティング(DTC: Digital Twin Computing)
<サービス、アプリケーションの新しい世界>
コグニティブ・ファウンデーション(CF: Cognitive Foundation®)
<すべてのICTリソースの最適な調和>

IOWN構想の実現に向けた
技術開発ロードマップ
IOWN構想の実現に向けて、具体的な技術ロードマップを策定し、技術開発を推進してまいります。 本ロードマップに従い、データセントリックコンピューティング技術、ディスアグリゲーテッドコンピューティング技術などをIOWN構想に取り込んでいくことにより、Smart World時代のナチュラルなサイバー空間の創造を加速していきます。

様々な企業と連携したIOWN GLOBAL FORUM
NTT、インテル コーポレーション、ソニー株式会社は、新たな業界フォーラムであるIOWN Global Forum, Inc. (以下「IOWN GF」)を設立。
IOWN GFの目的は、これからの時代のデータや情報処理に対する要求に応えるために、新規技術、フレームワーク、技術仕様、リファレンスデザインの開発を通じ、シリコンフォトニクスを含むオールフォトニクス・ネットワーク、エッジコンピューティング、無線分散コンピューティングから構成される新たなコミュニケーション基盤の実現を促進していきます。

NTT 公式サイト

オールフォトニクス・ネットワーク (APN) とは

  • オールフォトニクス・ネットワークは、ネットワーク全体にフォトニクス(光)ベースの技術を導入し、低消費電力、高品質・大容量、低遅延の伝送を実現することを目指す。
  • IOWN 構想の一部であり、エレクトロニクス(電子)ベースの技術では難しい性能を提供する。
  • 電力効率を 100 倍に向上させる。
  • 伝送容量を 125 倍に増加させる。
  • エンド・ツー・エンド遅延を 200 分の 1 に削減する。
  • 光と電子が融合した新しいチップの実現を目指す。
  • フォトニック結晶などの技術を活用し、低消費電力の基本動作を実現する。
  • 光ファイバーを用いた大容量光伝送システムの実現。
  • マルチコアファイバーなどの新しいファイバー構造を活用し、ファイバーあたり 1Pbit/s 級の伝送を目指す。
  • 光イジングマシン LASOLV® を活用し、複雑な組み合わせ最適化問題の解決を目指す。
  • 光格子時計を利用した光格子時計ネットワークの実証実験。
  • 地殻の動きや重力の変化を測定し、地震などの災害管理に役立てることを目指す。
  • 既存のネットワークの性能向上だけでなく、次世代のコミュニケーション・インフラとしてスマートな世界の創造に貢献する多様な可能性がある。

オールフォトニクス・ネットワークとはなにか
IOWN構想とオールフォトニクス・ネットワークの概要
近未来のスマートな世界を支えるコミュニケーション基盤「IOWN(アイオン:Innovative Optical and Wireless Network)」。現在2030年頃の実現をめざし、研究開発が進められています。当特集の第一回連載「IOWN構想とは? その社会的背景と目的」でご紹介した通り、IOWNは次の3つの主要技術分野から構成されています。

オールフォトニクス・ネットワーク(APN: All-Photonics Network)
<情報処理基盤のポテンシャルの大幅な向上>
デジタルツインコンピューティング(DTC: Digital Twin Computing)
<サービス、アプリケーションの新しい世界>
コグニティブ・ファウンデーション(CF: Cognitive Foundation®)
<すべてのICTリソースの最適な調和>
今回は上記のなかのオールフォトニクス・ネットワークについて解説していきます。オールフォトニクス・ネットワークは、ネットワークから端末まで、すべてにフォトニクス(光)ベースの技術を導入し、これにより現在のエレクトロニクス(電子)ベースの技術では困難な、圧倒的な低消費電力、高品質・大容量、低遅延の伝送を実現します。このネットワークの光化とエンド・ツー・エンドでの光技術の活用が、 IOWN構想を実現するうえできわめて重要な役割を果たすことになるのです。

オールフォトニクス・ネットワークの目標性能
オールフォトニクス・ネットワークではフォトニクスベースの技術を活用し、低消費電力、高品質・大容量、低遅延の伝送の実現に向けて、次の3つの目標性能を掲げています。
「電力効率を100倍に」
ネットワークから端末まで、できるだけ光のままで伝送する技術や、光電融合素子という新しいデバイスの導入を検討
「伝送容量を125倍に」
マルチコアファイバなどの新しい光ファイバを用いた大容量光伝送システム・デバイス技術の導入を検討
「エンド・ツー・エンド遅延を200分の1に」
情報を圧縮することなく伝送するなど、さまざまな新技術の導入を検討
これら目標に向けて、様々な研究開発へ取り組んでいます。以下でキー・テクノロジーである「光電融合技術」をはじめ、代表的な取り組みについてご紹介します。

オールフォトニクス・ネットワークのキー・テクノロジー「光電融合技術」
コンピュータで演算を行うチップは従来、使い勝手の良い電子技術が活用されてきました。しかし、近年の高集積化に伴いチップ内の配線の発熱量の増加が、性能を制限しつつあります。そこで、チップ内の配線部分に光通信技術を導入し低消費電力化を行い、さらには光技術ならではの高速演算技術を組み込んだ、新しい光と電子が融合したチップを実現することを目標に掲げています。これが光電融合技術です。

従来、光は取り扱いが非常に難しいものでした。しかし屈折率が周期的に変化するフォトニック結晶と呼ばれる構造により、光を小さな領域に閉じ込め、光と物質の相互作用を高めることが可能になってきています。このフォトニック結晶により、光スイッチ、レーザ、光メモリ、光RAMといったさまざまな光デバイスにおいて、低消費電力での基本動作を確認しています。
光電融合技術のロードマップは次の3つのStepから考えられています。

<Step1>
シリコンフォトニクスにより実装された回路とファイバ、アナログICなどを集積した構造を実現し、チップ外部との接続速度を高速化。
<Step2>
チップ間を超短距離の光配線により直接接続
<Step3>
チップ内のコア間を光配線で接続し、超低消費電力化を実現
さらにStep3では光独特の演算処理を組み込みチップの性能を向上させます。光パスゲートと呼ぶこの論理回路では、通常N段の論理ゲートを通過する際にN段分の遅延が生じるところを、光スイッチを活用することで、光回路の通過時間のみで瞬時に計算結果を得ることができます(1)。まだビット数が少ない基礎評価段階ですが、この光パスゲートや、ほかにも光トランジスタ(2)の活用を検討しています。

大容量光伝送システム・デバイス技術
光通信が始まった1980年代と比べると、この40年間で光ファイバによる通信速度は実に6桁も高速化しました。近年ではさらに、デジタルコヒーレント通信用信号処理回路(DSP)の開発により一層の大容量化が進んでいます。

NTTは2019年に実験室レベルで1波長当り1Tbit/s、これを35波、波長多重して伝送する実験に成功しました(3)。また、敷設光ファイバを用いた商用環境下で、実用段階の1Tbit/sの信号を、1000km以上伝送することにも成功しています(4)。現在、マルチコアファイバという、1本のファイバ中に多くのコアを並べた新たな構造のファイバなどを活用して、ファイバ当り1Pbit/s級の伝送も見据えています。

今後の課題としてはコア、メトロ、アクセスネットワーク、それぞれに適したデバイスを、着実に進化させることが必要となります。また、需要が急激に伸びているデータセンタ間接続用デバイスも重要になると考えられ、データセンタ間を含めたエンド・ツー・エンドを可能なかぎり光のまま接続すること、まさにIOWNで実現しようとしていることが求められています。

複雑な光の波長割り当て問題などを解決するLASOLV®
NTTでは光技術を活かした光イジングマシンLASOLV®により、従来の計算機では困難であった、複雑で多量の計算を必要とする問題の1つである組み合わせ最適化問題を解く研究を進めています。

組み合わせ最適化問題はグラフ問題へと変換できることが分かっていますが、このグラフ問題に対して物理的な実験を行って答えを出すのがイジングマシンという新しい概念のコンピュータです。IOWN構想では、オールフォトニクス・ネットワークにおける複雑な光の波長割り当て問題や、機械学習の高負荷な処理にLASOLV®を活用することを考えています。

新たなタイムビジネスの可能性を持つ光格子時計ネットワーク
300億年に1秒しか狂わない光格子時計。これは東京大学の香取秀俊教授が発明されたもので、最先端のセシウム原子時計に比べて3桁精度が高く、さらにレーザで時計を読み取るので、光ファイバによるクロック伝送が可能になるといったメリットを持っています。現在、この光格子時計をNTTの保有する多くの局舎に設置して光格子時計ネットワークを構築することで、どのようなことが可能になるかを検討しています。

一例をあげると、一般相対性理論が示唆するように高い場所ほど時間が早く進むため、18桁の時間精度を持つ光格子時計で、遠隔地間を比較し微細な高低差を測定。そのデータから地殻の動きやマグマのような巨大な重力の動きをとらえることが可能となります。このことから地震の多い日本で、非常に有効な安心・安全インフラを構築できる可能性があると考えています。

現在、NTTでは光ファイバの揺らぎを相殺して高い精度を維持しながら中継できる装置を 中継局に設置し、光ファイバを用いて接続された拠点間で、光格子時計ネットワークの実証実験を進めています。将来的には、IOWN構想にも導入し、新たなタイムビジネスにつなげたいと考えています。

このようにオールフォトニクス・ネットワークは既存のネットワークの高速化・大容量化・高品質化を図るだけではありません。そこには次世代のコミュニケーション・インフラとして、スマートな世界の創造に貢献する多様な可能性があると考えています。

※当稿は「NTT R&Dフォーラム2019 特別セッション/オールフォトニクス・ネットワークを支える基礎技術」から抜粋・再構成しています。

NTT 公式サイト

デジタルツインコンピューティング (DTC) とは

  • デジタルツインコンピューティングは、ネットワークから端末までフォトニクス(光)ベースの技術を導入したオールフォトニクス・ネットワークと、あらゆる ICT リソースを最適に制御するコグニティブ・ファウンデーションをベースにした概念。
  • 新しいサービスやアプリケーションの世界を目指している。
  • IOWN (Innovative Optical and Wireless Network) は、近未来のスマートな世界を支えるコミュニケーション基盤であり、デジタルツインコンピューティングはその一部である。
  • IOWN は、オールフォトニクス・ネットワーク、デジタルツインコンピューティング、コグニティブ・ファウンデーションの 3 つの主要技術分野から構成されている。
  • デジタルツインは、モノやヒトをデジタル表現し、現実世界のツイン(双子)をデジタル上に構築する。
  • NTT が提唱するデジタルツインコンピューティングでは、ヒトとモノのデジタルツインを自在に掛け合わせて演算し、未来の予測を高精度に行うことが可能となる。
  • デジタルツインコンピューティングは、実世界の物理的な再現を超えて、ヒトの内面を含む相互作用をサイバー空間上で実現することを目指している。
  • 電子メールやインターネットの登場から始まり、ヒトとモノのデジタル化は進展してきた。
  • IoT と AI によるモノのデジタル化が現在のトレンドであり、今後は再度ヒトのデジタル化の時代が到来する可能性がある。
  • デジタルツインコンピューティングは、ヒトの内面、例えば意識や思考を表現する挑戦をしている。
  • ヒトの個性を表現し、多様性に基づく相互作用を可能とすることが重要である。
  • ヒトのデジタル表現には、計算機を用いたヒトの能力の模倣や、脳や身体の生理学的解明に基づくアプローチがある。
  • これらのアプローチを組み合わせて、ヒトのデジタル化の目標に向かう。
  • 音声認識や音声合成などの技術の発展により、ヒトの音声や感情・意図の理解が可能となっている。
  • デジタルツインコンピューティングのテクノロジーやアーキテクチャの構築には、レイヤ構造の中間に「共通層」を設ける砂時計の構造が重要である。
  • 幅広い学際的なパートナーや産業界とのコラボレーションが重要であり、デジタルツインコンピューティングを具現化していくための取り組みが進められている。

デジタルツインコンピューティングとはなにか
IOWN構想とデジタルツインコンピューティングの概要
近未来のスマートな世界を支えるコミュニケーション基盤「IOWN(アイオン:Innovative Optical and Wireless Network)」。現在2030年頃の実現をめざし、研究開発が進められています。当特集の第1回連載「IOWN構想とは? その社会的背景と目的」でご紹介した通り、IOWNは次の3つの主要技術分野から構成されています。

オールフォトニクス・ネットワーク(APN: All-Photonics Network)
<情報処理基盤のポテンシャルの大幅な向上>
デジタルツインコンピューティング(DTC: Digital Twin Computing)
<サービス、アプリケーションの新しい世界>
コグニティブ・ファウンデーション(CF: Cognitive Foundation®)
<すべてのICTリソースの最適な調和>
今回は上記のなかのデジタルツインコンピューティングについて解説していきます。デジタルツインコンピューティングは、ネットワークから端末までフォトニクス(光)ベースの技術を導入したオールフォトニクス・ネットワーク、あらゆるICTリソースを最適に制御するコグニティブ・ファウンデーションをベースに、<新しいサービス、アプリケーションの世界>をめざしています。それでは、デジタルツインコンピューティングがつくりだす世界像を見ていきましょう。

ヒトと社会のデジタル化世界を創造する
近年、デジタルツインという言葉がよく使われています。ツインとは双子のことで、モノやヒトをデジタル表現することによって、現実世界(リアル)のツイン(双子)をデジタル上に構築することを意味します。

従来のデジタルツインの枠組みは、例えば自動車やロボットなどに代表される実世界の個々の対象をサイバー空間上に写像し、それに対して分析・予測などを行うものでした。また、その分析・予測などの結果を実世界に逆写像することで活用してきました。

NTTが提唱するデジタルツインコンピューティングでは、従来のデジタルツインの概念を発展させて、多様な産業やモノとヒトのデジタルツインを自在に掛け合わせて演算を行うことにより、都市におけるヒトと自動車など、これまで総合的に扱うことができなかった組合せを高精度に再現し、さらに未来の予測ができるようになります。

また、実世界の物理的な再現を超えた、ヒトの内面をも含む相互作用をサイバー空間上で実現することを可能とする新たな計算パラダイムをめざしています。これは、多様なデジタルツインから成る仮想社会をサイバー空間に構成したり、実世界では単一である実体のデジタルツインをサイバー空間上で複製し、あるいは、異なるデジタルツイン間で構成要素の一部を交換、融合し、実空間には存在しないデジタルツインの生成を可能にするという挑戦です。これは一方で、相互の互換性がなく、いわゆるサイロ化した従来からのデジタルツインをシームレスに連携させることも意味しています。

ヒトとモノのデジタル化を交互に繰り返してきた歴史
ここでモノとヒトに関するデジタル化について、最近の30年から40年の歴史を振り返ってみます。1985年ころに電子メールが登場し、コミュニケーションに使われ始めました。このことは、ヒトを中心にしたデジタル化の発展ととらえることができます。

その後、1995年ごろよりインターネットが登場し、同時に商品、時刻表、地図のような生活やサービスの向上に直結するモノ情報のデジタル化が加速します。次に2005年ごろよりSNSによるヒトの新たなコミュニケーションの時代が到来しました。

そして現在は2015年ごろから始まった、IoT(Internet of Things)とAI(人工知能)によるモノのデジタル化の時代です。このようにデジタル化の近年の歴史を振り返ると、私たちはヒトとモノのデジタル化を交互に繰り返してきたととらえることが可能です。

このような繰り返しから、また最近のデジタルツインの導入が進むIoTの発展状況をみると、今後は、おそらく再度ヒトのデジタル化の順番が到来するものと考えています。また、重要なのは、価値というのは直線・比例的に増加するのでなく、あるところで爆発・非連続的に増える傾向にあるということです。そろそろ、その「時」がやってくるのではないかという予測をしています。

ヒトの意識や思考をデジタル表現する挑戦
デジタルツインコンピューティングの大きな特長として、ヒト、特に個人の内面のデジタル表現に挑戦することがあげられます。ヒトの外面だけでなく内面、例えば意識や思考を表現することによって、ヒトの行動やコミュニケーションなどの社会的側面についても高度な相互作用を行うことができると考えています。

また、ヒトそれぞれの個性を表現することで、平均値として統計データ化された無個性な個体間の相互作用ではなく、個々人の特徴を踏まえた多様性に基づく相互作用が可能となるでしょう。

これらの特長により、多様なモノやヒトどうしが、実世界の制約を超えて高度な相互作用を行える仮想社会を創生できると考えています。

ヒトの内面をデジタル表現する2つのアプローチ
デジタルツインコンピューティングにおけるヒトのデジタル表現は、ヒトの外面に関する表現だけでなく、意識や思考といった内面のデジタル表現を可能にすることが重要です。

この難しい目標を達成する手段として大きく2つのアプローチがあると考えています。1番目の方法は計算機を用いて私たち人間の能力を模倣し、それを繰り返しながら「より人間に近づけていく」方法です。例えば音や声を認識する技術や会話によりコミュニケーションする技術がこの方法で進展している代表例です。

2番目の方法はいわば究極的な方法で、私たち人の脳や身体を生理学的に解明し、その結果を計算機に転写する手法です。近年脳神経科学を代表するこの分野は大きく進展しており、工学的に利用可能な研究成果も生まれています。私たちはこれら2つのアプローチのそれぞれ優れた部分を利用し、ヒトのデジタル化の目標に向かうことを考えています。

より人間に近づけていくテクノロジー
次に、NTTの研究所がこれまで取り組んできたひとつめの<より人間に近づけていく>アプローチについての関連技術を紹介します。

音声認識
聞く技術としては、ヒトの声をいかに精度良く認識するか、というもので半世紀にわたって研究を進めてきました。2010年ごろからはヒトの自然な発話を精度良く認識できるようになり、コンタクトセンタでの活用が進んでいます。現在では、最新のニューラルネットワークの導入により、いよいよヒトの音声認識の能力に近づいています。
音声合成
発話する技術は、どれだけヒトの声らしく自然な音声に変換するかが課題です。 これには文脈に沿って漢字の読み方を判別するテキスト解析処理や声の高低・スピードを適切に付与して音声信号を合成する処理などが含まれます。現在では、話者の音声データからディープラーニングによって自然かつ多様で、肉声感のある声の合成を実現しています。
感情・意図の理解
現在では、声の大きさや高さだけでなく会話のリズムや言葉遣いなどの情報から、一般には推定が困難なコールドアンガー(静かで冷静な怒り方)の検知や、不満よりも特徴が現れにくい満足感情の高精度な認識まで可能にしています。
レイヤ構造と”砂時計”構造
デジタルツインコンピューティングのテクノロジーやアーキテクチャの構築していくうえで、レイヤ構造の中間に「共通層」を設ける”砂時計”の構造を追加できるか、ということが重要になります。

インターネットにおけるIP層のように、「共通層」に据えることで下部のネットワーク層と上部のアプリケーション層がうまく融合して機能することが可能となります。この共通層である、くびれの部分はデジタルツインコンピューティングのアーキテクチャにおけるデジタルツイン層が担うことになります。

このデジタルツイン層は、実空間からさまざまにセンシングしたデータから生成されるデジタルツインや、デジタルツイン間の演算を通して生成される派生デジタルツインを保持します。これらの保持されたデジタルツインが、さまざまな仮想社会を構築するための基本的な構成要素になります。

デジタルツインの掛け合わせによる価値爆発に向けて
今後、社会科学、人文科学などを含めた幅広い学際的なパートナーとともに、デジタルツインコンピューティングを真に有用なものにしていこうと考えています。さらに、構想実現に向けては、多様な産業界とのコラボレーションも重要です。今後、パートナーを開拓し多くの知恵を集め、よりスマートな世界を実現する未来を切り拓いていきます。

※当稿は「NTT R&Dフォーラム2019 特別セッション/ヒトと社会のデジタル化世界 ─ デジタルツインコンピューティング ─」から抜粋・再構成したものです。

デジタルツインコンピューティング構想をパートナーとともに具現化するためのリファレンスドキュメントを公開
NTTは、2019年6月10日に策定・発表したデジタルツインコンピューティング構想(Digital Twin Computing Initiative)を、さまざまなパートナーとともに具現化していく第一歩として、デジタルツインの概念と構成要素を検討、記述したドキュメントを「ditigal twin computing reference document(以下、リファレンスドキュメント)」として公開しました。

NTT 公式サイト

コグニティブ・ファウンデーション (CF) とは

  • IOWN 構想の一部であり、全ての ICT リソースを最適に調和させ、必要な情報をネットワーク内に流通させる役割を担う。
  • マルチオーケストレーターが、クラウドやエッジを含む様々な ICT リソースを最適に制御し、ニーズに応えるオーバレイソリューションを提供する。
  • ICT リソースを柔軟に制御し、調和させるための自己進化と最適化を目指す。
  • 災害などの状況変化に応じて、システムが自ら考え最適化して災害対策を立案・実行する。
  • 無線アクセスを最適化する技術。
  • 無線通信品質の予測に基づいて、プロアクティブに無線接続を最適化し、多種・多様なサービスを提供する。
  • クラウドからエッジコンピュータ、ネットワークサービス、ユーザー設備など、レイヤの異なる ICT リソースを最適に統合・管理する。
  • オーケストレーション、マネジメント、インテリジェントな機能群を備えている。
  • ICT リソースは増大し続け、エコシステムとして連携が求められる。
  • コグニティブ・ファウンデーションは、ICT リソースを全体最適に調和させる重要な役割を果たす。

コグニティブ・ファウンデーションとはなにか
IOWN構想とコグニティブ・ファウンデーションの概要
近未来のスマートな世界を支えるコミュニケーション基盤「IOWN(アイオン:Innovative Optical and Wireless Network)。現在2024年の仕様確定、2030年の実現をめざして、研究開発が進められています。当特集の第1回連載「IOWN構想とは? その社会的背景と目的」でご紹介した通り、IOWNは次の3つの主要技術分野から構成されています。

オールフォトニクス・ネットワーク(APN: All-Photonics Network)
<情報処理基盤のポテンシャルの大幅な向上>
デジタルツインコンピューティング(DTC: Digital Twin Computing)
<サービス、アプリケーションの新しい世界>
コグニティブ・ファウンデーション(CF: Cognitive Foundation®)
<すべてのICTリソースの最適な調和>
今回は上記のなかのコグニティブ・ファウンデーションについて解説していきます。IOWN構想のなかで、コグニティブ・ファウンデーションは、あらゆるICTリソースを全体最適に調和させて、必要な情報をネットワーク内に流通させる機能を担っています。

具体的にはマルチオーケストレータが、クラウドやエッジをはじめ、ネットワーク、端末まで含めて様々なICTリソースを最適に制御することで、ニーズにこたえるオーバレイソリューションの迅速な提供をめざすものです。以下でコグニティブ・ファウンデーションに関わる代表的な研究開発の取り組みについて紹介します。

自己進化型サービスライフサイクルマネジメント
ICTリソースすべてを柔軟に制御し、調和させるためのポイントは「自己進化」と「最適化」にあります。この2つの要素をあわせ持つのが自己進化型サービスライフサイクルマネジメントです。

具体例をもとに説明すると、2019年の台風15号や19号は大きな災害となり、通信サービスにも大きな影響がありました。NTTが通信基盤を提供していくなかで、これまでも機器が発するログから障害をAI(人工知能)が予測して自律的に対処する技術の研究開発に取り組んできましたが、これを今後もう一歩進めます。

例えば、台風の勢力や進路といった気象情報、イベント開催情報など、ネットワーク機器を監視するだけでは分からない情報など、多様な情報もIOWNのコグニティブ・ファウンデーションに取り入れていきます。

新たに収集した多様な情報を基に、システムが自ら考え最適化していくことで、災害発生前に対策立案し実行します。未来予測を用い、システム自体が進化していく、これが自己進化型のサービスライフサイクルマネジメントです。

無線アクセスを最適化するCradio(クレイディオ)
無線リソースに関する最適化技術も新たな研究開発を進めていきます。今、世の中にはさまざまな無線の方式があります。従来の4G/LTEはもちろん、衛星通信、Wi-Fi、WiMAX、IoT向けのLPWA (Low Power, Wide Area)、そして5G、Local 5Gなど、非常に複雑になってきました。

ユーザーの様々な利用シーンにおいて、その種類や使い方、ネットワークサービスを意識させない無線アクセスを最適化する技術。このような無線制御技術の総称を「Cradio(クレイディオ)」と名付けて研究開発を推進しています。Cradioでは、場所だけでなく混雑や品質の予測に基づいて、プロアクティブに無線接続を最適化します。

例えば、Wi-Fiのスループットが低い東京駅にいる人に、急いで情報を送りたい、といった場合にネットワークの側から最適な無線アクセスを選択し、接続を制御することもできるようになるでしょう。場所、アプリケーション、環境などに応じて、方式や事業者を意識せず、無線アクセスを利用できるような無線制御技術をコグニティブ・ファウンデーションに取り入れていきます。

Cradioはドローンや自動運転車両、スマートフォン端末の移動などに伴う無線通信品質の動的な変化をAI(人工知能)で事前予測し、アプリケーションの要件に応じて最適な無線環境を自動選択・設定することで、多種・多様なサービスの提供をめざしています。

異なるレイヤのリソースを最適統合するマルチオーケストレータ
コグニティブ・ファウンデーションは、クラウドからエッジコンピュータ、ネットワークサービス、ユーザー設備などレイヤの異なるICTリソースの配備・設定・連携、そして管理・運用を一元的に実施する仕組みです。

コグニティブ・ファウンデーションはこれらの多様なターゲットを、仮想化されたICTリソース群として扱い、マルチオーケストレーション機能をハブとしてレイヤの異なる複数のリソースを最適統合していきます。

マルチオーケストレータを構成する3つの機能群
コグニティブ・ファウンデーションを支えるキー・テクノロジーであるマルチオーケストレータは、以下の3つの機能群で構成されています。それぞれの機能群はAPI(Application Programming Interface)を通じて疎結合可能なかたちになっています。
「オーケストレーション機能群」
ワークフローエンジンとICTリソースごとに適したコマンドに変換するアダプタ群
「マネジメント機能群」
標準データモデルに基づく構成情報、設計情報などの管理機能群
「インテリジェント機能群」
設計・構築・試験から運用などのICTリソースを常に最適に保ち自律運用を可能とするAI機能群
未来にむけてICTリソースは飛躍的に増大し続けていきます。また近年よく使われる「エコシステム」という言葉に代表されるように、たとえばひとつの企業というような従来の枠組みを超え、より広範な世界でICTリソースを連携させ、活用することが求められています。IOWN構想のなかで、コグニティブ・ファウンデーションはICTリソースを全体最適に調和させる重要な役割を果たしていきます。

※当稿は「NTT R&Dフォーラム2019 特別セッション」他の内容をもとに再構成したものです。

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